今回は、お花見客でごった返すことのない、静かで清涼感ただよう早春の「正法寺」をご紹介します。
正法寺(しょうぼうじ)は京都市西京区にある東寺真言宗の古刹です。すぐ近くには「花の寺」として有名な「勝持寺」(しょうじじ)があります。また、北向かいには「大原野神社」(おおはらのじんじゃ)があります。
霧雨の中、遍照塔をバックに。枝垂れ桜の大きな傘。
*ちょっと脇道へ*
その年によってかなりばらつきがあります。
ソメイヨシノより約1週間早くシダレ桜が、約1週間遅くベニシダレ桜が満開になります。
2018年 開花:3月22日 ☞6日後 満開3月28日
2019年 開花:3月27日 ☞9日後 満開4月5日(一旦寒気が戻ったため)
2020年 開花予想:3月20日(平均は3月28日なので、とくに早い!)
追記:2020年開花は3月22日 ☞8日後 満開3月30日でした。
Location
JR 向日町 / 阪急 東向日 から 阪急バス65系統 終点「南春日町」 徒歩10分
車の場合:無料駐車場があります。
大原野神社には有料駐車場があり、係の方は正法寺への拝観時間も駐車を許可してくださいました。(混んでいる場合は許可されないかもしれません)
History
創建は奈良時代に遡ります。
天平勝宝6(754)年、鑑真和上が苦難の末、奈良の都に辿り着きました。鑑真にお伴して渡来し、唐招提寺に住持した高弟の一人、智威大徳(ものすごく徳が高かったとか)がこの場所に隠棲して禅坊を結んだのが始まりです。
(鞍馬寺の創建も、鑑真和上のお弟子さんでしたね)
この智威大徳の「春日禅坊」を、平安時代に伝教大師最澄が大原寺(だいげんじ)の名で寺としました。
(大原野神社は「おおはら」、大原寺は「だいげん」です。神社は訓読み、寺は音読みするのが一般的です)
その後、智威大徳に心酔した弘法大師空海が毎日のように訪れました。そして厄除けの「聖観世音菩薩」を彫刻したと伝わります。当時の弘法大師は高野山を開く前で、近隣の乙訓寺の寺務長でした。時代がくだって江戸時代になると、ここは「西山のお大師さん」として庶民から信仰されました。
応仁の乱で焼失しましたが、元和元年(1615)に正法寺として再興されました。元禄年間(1680~1703)には徳川綱吉の母、桂昌院の帰依を受けて、徳川家の祈願所となりました。
(桂昌院は、「玉の輿」の由来となったお玉さんです)
*ちょっと脇道へ*
「正法寺」の「正法」とは?
仏法(仏が悟った真理)のことです。
密教では「三輪身」といって、仏(如来)が、救済しようとする相手によって姿を変えるとされます。本来の姿「如来」は「自性輪身」、「菩薩」として教法を説いて救済する姿が「正法輪身」、
【本堂】本尊:三面千手観世音菩薩(国・重要文化財)
頭上には小さな頭(化仏)がたくさんついていますので、一見すると十一面観音のようです。しかし本面の左右に同じ大きさのお顔がついていますので、三面千手観音と呼ばれています。「過去」「現在」「未来」にわたって救いの手を差し伸べることを意味しているそうです。高さが2m以上あり、優しいオーラが伝わってきました。
この日は寒かったのですが、本堂のホットカーペットの暖かさがとても嬉しかったです。
お大師さん作とされる聖観音をはじめ、数々の仏像が祀られていますので、ゆっくり拝観することができました。
正法寺は「石の寺」としても知られています。本堂に向かって左手の「客殿」(宝生殿)の「鳥獣の石庭」には、象や獅子、ウサギや亀、蛙やフクロウなどに見立てた数々の石が置かれています。晴れた日には、東山連峰の南端が遠望できますが、この日は雨でした。ここにある紅枝垂れ桜はまだ開花前です。
(東山連峰を借景に、満開の紅枝垂れ桜の下に遊ぶ石の鳥獣たちは、たくさんの方がウェブ上に写真を掲載されています)
代わりに、しっとりと咲く美しい花々を楽しむことができました。
ボケ(木瓜)
そのまま連れて帰りたいような可憐さ。
サンシュ(山茱) 和名はハルコガネバナ(春黄金花)
春を告げる花とされています。
【春日不動堂】本尊:春日不動明王
お堂の前の紅枝垂れ桜もまだ開花前でした。極楽橋の枝垂れ桜と違って、遅咲きです。
正法寺の前身を春日禅坊と呼んだとおり、このエリアは昔も今も「春日」という地名です。
地名の元になっているのは、真向かいにある大原野神社だと思います。大原野神社は、奈良「春日大社」の神々を勧請したことに始まるからです。長岡京遷都から平安京遷都後も皇室や藤原家ゆかりの土地でした。
こちらの不動明王は凛々しいお姿ですが、憤怒というより、優しいお顔のチャーミングなお不動さまに見えました。
このお堂の廊下には「水琴窟」があり、竹筒を通してきれいな音色が聞こえてきます。
そこから見える庭がとても美しいです。築山、樹木、岩石…すべてが調和しています。
不動堂の奥には「稲荷殿」があります。不動堂から出なくても、赤い鳥居とその向こうの社殿に参拝できます。ここの春日稲荷尊こそ、日本最古のお稲荷さんだそうです。
*ちょっと脇道へ*
お使い役の白狐
智威大徳は90歳を越えても禅坊に籠りきりで仏道に励んでいました。このときお世話をしていた老翁に付き従う白狐がいました。白狐はお使いとなって天からの恵みをもたらしたり、人々のお布施や手紙を運んできたそうです。93歳になった智威は、石窟で座禅をしながら入定しました。
智威の入滅後も、白狐だけが石窟の前にひかえていたそうです。これを見た人々が、境内に小さな祠を建て「狐王社」としたのでした。
狐は稲荷信仰では眷属ですが、ここでは神様そのものとして崇められているのですね。
早春の花々を見に行かれる季節に間に合うよう、昨年の様子を記しました(2019年3月30日)。遅咲きのベニシダレ桜が満開になる頃が圧巻のようですが、桜が終わるとサツキやツツジが咲き誇るそうです。さきほどアップした春告げ花「サンシュ」は秋になると真っ赤な実をつけるようですし、燃えるような紅葉も楽しみです。
最後まで花が見送ってくれました。
参考文献:
正法寺のパンフレットおよびHP: http://www.kyoto-shoboji.com/index1.htm
京都府歴史遺産研究会編『京都府の歴史散歩(上)』(山川出版社, 2014)